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東京高等裁判所 昭和50年(う)988号 判決

本店所在地

東京都千代田区有楽町一丁目七番一号 有楽町電気ビル

東鉄建設株式会社

(右代表者代表取締役 並木貢)

本籍

東京都世田谷区野沢四丁目二四三番地

住居

同都同区深沢七丁目一三番一一号

会社役員

並木貢

昭和一六年四月二四日生

右の者らに対する法人税法違反被告事件につき、昭和五〇年三月二八日東京地方裁判所が言渡した有罪判決に対し、被告人両名から適法な控訴の申立があつたので、当裁判所は検察官粟田昭雄出席のうえ審理をして、つぎのとおり判決する。

主文

被告人並木貢の本件控訴を棄却する。

原判決中被告人東鉄建設株式会社に関する部分を破棄する。

被告人東鉄建設株式会社を罰金二、〇〇〇万円に処する。

理由

本件控訴の趣意は弁護人金原藤一、同亀井忠夫共同作成名義の控訴趣意書に、これに対する答弁は検察官粟田昭雄作成名義の答弁書に、それぞれ記載されたとおりであるから、これらを引用する。

一、訴訟手続の法令違反の論旨について

1  所論は、要するに、本件は、三個の法人税法違反(同法一五九条一項違反)の事実を併合審理したものであるところ、右三個の事実は刑法四五条の併合罪の関係にあるから、併合罪加重により懲役刑の長期は三年を超えることになり、刑訴法二八九条にいう必要的弁護事件に該当すると解すべきであるのに、原審は弁護人のないまま公判を開廷し審理判決をしたから、原審の訴訟手続には、法令違反があり、右違反は判決に影響を及ぼすことが明らかである、というごとくである。

しかし、刑訴法二八九条にいう必要的弁護事件とは、起訴にかかる罪の法定刑が死刑又は無期若しくは長期三年を超える懲役若しくは禁錮である場合をいうのであつて、併合罪の加重をした結果の処断刑を基準とするものではないと解するのが相当である(東京高等裁判所昭和二八年(う)第一〇八六号・同年六月二九日判決・高裁刑集六巻七号八五二頁参照)。したがつて、本件につき、弁護人なくして審理をした原審の訴訟手続には、所論のような法令違反はない。論旨は理由がない。

2  所論は、原審が弁護人のないまま審理をしたことは刑訴法三七条に違反しており、右違反は、判決に影響を及ぼすことが明らかである、というのである。

しかし、記録を精査しても、原審裁判所が職権により弁護人を附するという措置をとらなかつたことを違法視すべきような事情はまつたくうかがわれず、原審の訴訟手続には所論のような刑訴法三七条違反はない。論旨は理由がない。

3  所論は、要するに、原審で取調べた大蔵事務官作成の被告人並木に対する各質問てん末書、被告人並木の検察官に対する各供述調書は、被告人並木が、取調官から罰金で済むと明言されたため、自己の主張をおさえて取調官の主張をうのみにした結果作成されたものであつて、このような利益誘導に基づく前記各調書は証拠能力および証明力がないというべきところ、これらの調書を証拠として採用し、事実認定の用に供した原審の訴訟手続には法令違反があり、右違反は判決に影響を及ぼすことが明らかである、というごとくである。

原審記録によれば、原審第二回公判期日において検察官より前記各調書の取調請求がなされ、原審裁判所は、被告人並木および被告人東鉄建設株式会社(以下単に被告会社という)の同意をえたうえ、刑訴法三二六条に基づき相当性があるものとして採用取調をしたことが認められるところ、原審記録を精査しても前記各調書には、所論指摘のような証拠能力(任意性)を疑わしめるような事情はまつたくうかがわれないから、原審裁判所の前記措置には所論のような訴訟手続の法令違反はない。また、前記各調書は、その内容の具体性や他の客観的証拠によつて裏付けられていること等からして十分に証明力を有するものと認められる。論旨は理由がない。

二  不法に公訴を受理したとの論旨について

所論は、要するに、そもそも、法人には犯罪能力もなければ責任能力もないのであるから、刑事責任を追及することはできないし、被告人並木を処罰するほか、両罰規定により事業主たる法人をも処罰するのは二重処罰であり刑罰権の不当な拡張であり許されないものであるところ、被告会社に対する公訴を受理し有罪判決を言渡した原判決には、刑訴法三七八条二号の事由がある、というのである。

しかしながら、法人税法のごとき行政取締法規においては、法人に刑罰を科することも許されると解すべきであり、また、本件において、法人の代表者である被告人並木個人と事業主である被告会社とを共に処罰しても、両者が人格を異にし、かつ、各別に処罰をする実質的理由があるから、二重処罰の禁止にふれるものではないと解するのを相当とする。論旨は理由がない。

三  事実誤認の論旨について

1  所論は、要するに、被告人並木は、税金の申告関係の処理は計理士と称していた本間勤にすべてを任せていたため、本件各事業年度の正確な脱税金額、脱税行為に対する認識を欠いていたものであるところ、これらの認識があると認定した原判決には事実の誤認があり、右誤認は判決に影響を及ぼすことが明らかである、というごとくである。

しかしながら、記録を精査しても所論のような事実の誤認はない。すなわち原判決挙示の証拠、なかんずく被告人並木の検察官に対する各供述調書によれば、被告人並木は、被告会社の真実の所得を秘匿し、法人税を免れようとし、そのための申告書類等の作成担当者として本間勤を雇い入れたものであり、原判示第一、第二の事実の関係では、確定申告の手続一切を本間に任せており、確定申告書の各勘定科目にどのような金額が計上されようと、すべて容認していたこと、原判示第三の事実の関係では、後記のとおり確定申告書は公認会計士山本英雄が作成したのであるが、山本は本間および被告人並木から提供を受けた資料に基づき機械的に金額を算出したにすぎないこと、原判示第二、第三の事実の各確定申告書には、第二については本間から、第三については山本から、それぞれ説明を受けて後被告人並木自身が押印していること、本件虚偽過少申告の中心をなす架空の土地造成費の計上に関しては、被告人並木自らその裏付資料を整えるため、本間と共に、他社名義を冒用して虚偽の請負契約書、領収書等を作成したりしていること、他方、被告人並木は、被告会社の収入、支出一切を自ら管理し、被告会社の実際の経理内容を十分に把握していたこと、が認められるのであつて、以上によれば、原判示各罪につき、逋脱罪に必要とされる犯意に欠けるところはない。論旨は理由がない。

2  所論は、原判示第三の事実に関し、原判決は、確定申告書を提出した旨認定しているが、真実は、品川税務署の了解のもとに仮の申告をしたにすぎないのであつて、確定申告をした趣旨ではないのであるから、原判決にはこの点で事実の誤認があり、右誤認は判決に影響を及ぼすことが明らかである、というごとくである。

しかしながら、原審で取調べた昭和四八年九月期法人税確定申告書、大蔵事務官の山本英雄に対する昭和四九年六月一七日付、昭和四八年一二月七日付各質問調書、被告人並木の検察官に対する昭和五〇年三月七日付、一〇日付各供述調書によれば、原判示のとおり法人税確定申告書を提出した事実が優に認められる。右各証拠によれば、昭和四八年九月期の法人税確定申告書は、公認会計士山本英雄が作成し、被告人並木が山本から説明を受けた後に押印して所轄税務署に提出したものであることが認められ、確定申告書を提出する以上、仮に後に修正申告をするという含みがあつたとしても、所論のような「仮の申告」などとはとうてい認められないのである。論旨は理由がない。

四  量刑不当の論旨について

所論は、要するに、被告会社を罰金二八〇〇万円に、被告人並木を懲役一年(執行猶予三年)に処した原判決の量刑は重きに過ぎ不当である、というのである。

被告会社は不動産の売買等を営業目的とし、被告人並木は被告会社設立以来代表取締役の地位にあつて同会社の業務全般を統轄しているものであるが、同会社の自己資金を備蓄し、法人税を免れようと企て、架空の宅地造成費を計上すること等により虚偽過少の法人税確定申告書を提出し、昭和四五年一〇月一日から同四八年九月三〇日までの三事業年度にわたつて、合計一億二一一八万五八〇〇円の法人税を免れたのである。右逋脱の動機、態様、逋脱金額に加え、被告人並木は、経理内容を被告会社従業員にも知られないようにとの配慮から、実際の収入、支出一切を自ら掌握し、架空の土地造成費を計上するため、他社名義を冒用して請負契約書、領収書等を作成したりもしているのである。これらの事実と、他方被告会社は、逋脱した各法人税本税を納付しているほか、原判決後、各逋脱年度の法人税に関する延滞税、重加算税等をすべて完納したうえ、法人事業税、法人都民税ならびにこれらに対する延滞金、重加算金等をも完納していること、本件については、被告人並木から税の申告手続を依頼された本間勤にも一半の責任があること、被告人並木は本件を深く反省し、会社の経理課を充実させ、税金の申告を公認会計士に任せる等して再過なきを期していること、前科前歴もないこと、等の事情もある。以上記録にあらわれた有利、不利すべての事情を総合すると、被告人並木については本件は罰金刑によつて処理しうる事案ではなく、原判決程度の量刑はやむをえないところであり、重きに過ぎるとはいえず、被告会社については、現時点においては原判決の刑は重きに過ぎるものと認められる。被告人並木についての論旨は理由がなく、被告会社についての論旨は理由がある。

よつて、被告人並木の本件控訴は理由がないから、刑訴法三九六条によりこれを棄却し、被告会社の本件控訴は理由があるから、同法三九七条、三八一条により原判決中被告会社に関する部分を破棄し、同法四〇〇条但書により被告会社の事件につき、さらに判決する。

原判決が適法に確定した事実に、原判決と同一の法令を適用、処断した罰金額の範囲内で被告会社を罰金二〇〇〇万円に処することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 石崎四郎 裁判官 森真樹 裁判官 中野久利)

○ 昭和五〇年(う)第九八八号

控訴趣意書

被告人 東鉄建設株式会社

被告人 並木真貢

右法人税法違反事件につき控訴趣意書を提出する。

昭和五〇年七月一五日

弁護人 金原藤一

同 亀井忠夫

東京高等裁判所

第一刑事部 殿

一、原判決は、訴訟手続の法令違反があり、その違反は判決に影響を及ぼすこと明らかな事由であり、刑事訴訟法第三七九条に違反する。

即ち、本件は必要的弁護事件であるのに、原審は弁護人を付さずに審理した違法がある。法第二八九条は、死刑又は無期若くは長期三年を超える懲役若くは禁錮にあたる事件を審理する場合には、弁護人がなければ開廷することはできない旨、明定する。

本件は、昭和四九年一一月二一日の起訴にかかる法人税法違反の公訴事実と、昭和五〇年三月一一日の追起訴にかかる法人税法違反の公訴事実とが併合審理された。法人税法第一五九条第一項は、三年以下の懲役若しくは五〇〇万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する旨、規定する。

本件が単一犯罪であれば、必要的弁護事件ではないこと明らかである。然し、本件は三つの犯罪事実が併合審理され三つの犯罪事実は、刑法第四五条にいう併合罪の関係にあり、刑法第四七条により、法律上当然に併合罪加重される。従つて、長期刑は明らかに三年を超える懲役にあたる事件となり、必要的弁護事件に該当する。成程、長期三年を超える懲役若しくは禁錮にあたる事件か否かは、刑罰法令の定める法定刑を基準として決定すべきであつて、法律上加重減軽の原由によつて加重減軽を施した刑を標準とすべきではない、処断刑を基準にすべきではないとの判例がある(福岡高S25・1・25、高裁特報4、16、東京高裁S28・6・29、集6、852)。その理由は、弁護人を必要とするかどうかは事件の軽重に従い開廷に先だつて、予め、直截簡明に定められる必要があり、そのためには法定刑を標準とすることが最も合理的であるというのである。然し、併合罪の場合には、法律上当然に併合罪加重されるのであるから、法律上極めて直截簡明に処断刑の範囲が決まり、恰かも法定刑と全く同じく法律上科すべき刑が法定されてくる。併合罪加重の結果、長期三年を超えることになるか否かは、審理を初めにあたり予め極めて直截簡明に明らかになるのであつて、その結果、長期三年を超える場合には、必要的弁護事件として取り扱うべきである。然も刑事訴訟法第二八九条の立法趣旨が当事者主義訴訟構造の下で、被告人の防禦権を完全に保障しその利益を十分に保護し、被告人の権利保護を図る処にある以上、併合罪加重の結果、長期三年を超えることになること明らかな本件においては、必要的弁護事件として処理すべきであつた。前記判例は、被告人の利益保護、権利保護、防禦権の十分なる保障という憲法的要請と法の立証趣旨並びに必要的弁護の精神の尊重からも変更されるべきである。

原審が昭和五〇年三月一二日以降弁護人を付さずに審理したことは、法第三七条の訴訟手続の法令違反に該当する。

被告人は、検察官が罰金で済むというので、全て認めることにし、弁護人を付さなかつたのであるから、弁護人を付さなかつたことは、判決に影響を及ぼすこと明らかであり、本件は先ずこの点で破棄を免れない。

二、原判決は、東鉄建設株式会社に対する公訴を受理し、右会社に対する審理判決をなしたる不法があり、刑事訴訟法第三七八条第二号の定める違法がある。

そもそも法人には、犯罪能力もなければ責任能力もなく、刑事責任を負担させることはできない。

法人は自然人のような意思と肉体もなく、刑法上の意思決定能力行為の是非弁別能力、行為決定能力を本質的、本来的に欠いており、刑事責任を追及することはできない。

刑事責任の本質は、行為時における行為者の主体的人格態度に対する社会倫理的、道義的非難可能性の問題である。

社会倫理的に深化された責任非難は倫理的意思決定をなしうる主体性をもつ自然人に対してのみ可能である。倫理的、人格的主体性をもつ者は自然人のみであつて、法人は倫理的、人格的主体性をもたない。法人自体はあく迄も自然人により造られた便宜上の存在体であつて、自然人の如き意思も判断能力もなく、自然人の如く自ら道義的規範に基き、行為の是非を判断しそれに基き意思決定する能力、行為決定する能力はない。要するに法人には、犯罪能力もなく責任能力もなく、刑罰の対象とはならない。従つて法人である東鉄建設株式会社に対する公訴を受理すべきでなく刑罰の一種である罰金二、八〇〇万円の刑を言渡すことはできない。成程、法人税法第一六四条は両罰規定を設けているが、そもそも法人には犯罪能力、責任能力がないのであるから両罰規定自体違法、無効のものである。不法に税を免れる行為をしたのは自然人であり、自然人のみがかかる行為をするのが可能である。自然人のみを処罰すれば足りる。自然人を処罰する他、法人を処罰するのは二重処罰であり刑罰権の不当なる拡張であり、又、刑法の責任原則に反する。

一個の自然人の行為を捉えて、その自然人を処罰するとともに法人を処罰することは、法律上二重の刑罰的価値判断を加えるもので刑罰権の不当なる拡張、拡大であり許されない。法人を処罰することになると、その法人の所有者である株主が全員前科の汚名を帰せられることになるのであろうか。原審の見解にたつと、代表者が複数いるとき、又は会長制と代表取締役とがいるとき、その一人が脱税したとき法人を処罰することができるのであろうが、脱税に関与しなかつた代表者には刑事責任を追及しえないことを原審も認めるであろう。

それは、刑罰がそもそも自然意思と責任能力をもつた、そして自ら犯行に及んだ自然人に対してのみしか科せられないことを自認しているからである。

要するに、刑事責任は自由意思と責任能力をもつた倫理的、人格的主体性をもつた自然人にのみ科すことができ、法人は自由意思に基く意思決定能力、是非弁護能力はなく刑事責任を科すことはできない。

自然人の犯した行政法規違反につき、法人を人格的、道義的、倫理的に非難し刑罰を科すことはできず、両罰規定は刑法の責任原則にも反し、二重の刑罰的、否定的価値判断をするもので、二重処罰にあたり刑罰権の不当なる拡大であり許されず、原判決は破棄を免れない。当裁判所は、人権の擁護者として両罰規定、法人処罰規定を無効である旨高らかに宣言し、立法府と行政府に警鐘を連打すべきである。

三、原判決は、東鉄建設株式会社に罰金二、八〇〇万円、並木貢被告人に対し懲役一年、執行猶予三年の言渡をしているが、右量刑は著しく不当であり破棄を免れない。

前述の如く、法人には犯罪能力も責任能力もなく、本質的に刑罰になじまない。代表者本人を処罰すればよい。代表者を処罰する他、法人をも処罰することは二重処罰であり、刑罰権の不当なる拡大である。この点でも会社に対する罰金二、八〇〇万円の科刑は不当であり破棄を免れない。

法人には民事上、脱税額の追懲支払いを命ぜればよく、それに止まるべきで刑事責任を追及することは、性質上不可能というべきである。東鉄建設株式会社は全て脱税額を支払い済みである。

並木貢被告人に対する懲役一年、執行猶予三年の量刑はこれ又余りに苛酷であり不当である。国税庁の調査及び検察庁の捜査の段階でも取調官が、並木社長個人は罰金刑で済むと明言したため並木被告人は自己の主張をさけ、全て国税庁と検察官の言うことをうのみにし、これを認めることにした。罰金で済むなら早く済ませ、速やかに営業に全力を注ぐ心算であつたからである。

国家権力が罰金で済むと明言しながら、懲役刑の求刑をすることは背徳行為である。求刑自体不当である。又、その求刑意見に大幅に従つた判決も不当である。かかる利益誘導に基く自白調書は、証拠能力も証明力もない。被告人の供述調書、取調べ調書は証拠能力なく証拠とすべきではない。この自白調書を証拠として一審に採用している原判決は、この点でも訴訟手続違反であり、右違反は量刑にも影響を及ぼし破棄を免れない。

脱税額は全て追懲金として支払い済みである。本件脱税行為は資格のない人を資格のある計理士と思い込み、この人に全て税金の申告を任せ切つていたことに強く原因している。現在においては経理課を充実させると共に、資格のある公認会計士に全て経理を任せ、税金申告も任せ、正確、公正な申告が保障され、今後決して脱税行為がないこと、前科前歴のないこと等を考えると懲役刑は苛酷である。

造成費を必要経費として申告したが、造成費はたな卸し資産であり、資産として計上すべきであり、必要経費として申告すべきではない。この申告内容をみても並木被告人が経理を任せた人は不正確であることが解る。並木被告人は、いわゆる計理士に言われるままに申告書に印を押した。

国税庁でも検察庁でも、現実には正確な計算は解らないが、罰金刑で済むといわれたため、並木被告人はさからわず、争わず、全てをはいはいとうのみにしたもので、並木被告人には現実には正確な計費、脱税額は解らなかつた。交際費、出張費、案内費、厚生費でも、現実にはもつと多額である。会議費、社員接待費を計上していないが、本来これも計上すべきである。税金を節約するため、いわゆる計理士に全てを任せていたし、いわゆる計理士も全て自分に任せろというので、信頼して任せ、唯、申告書にめくら印をおすだけで、正確には脱税金額、脱税行為に対する認識を欠いていた。

被告人は深く反省し、今後決してしないことを誓つていることなどをも考えると、懲役刑は余りにも苛酷であり原判決は破棄を免れない。被告人に対し捜査の段階で、罰金刑で済むと検察官が明言している以上、検察官は罰金刑を求刑すべきであり、判決も罰金刑にすべきである。

昭和四八年九月期末の決算も、現実には決算時期を知らないため、並木被告人は品川税務署から早く決算を出せと催足され、資料が不十分なのでその後修正することを条件として仮りに申告したところ、その七日後査察をしてきた。

後から修正することを山本公認会計士が品川税務署から了解をとつた上、仮りに申告した。この申告後七日後に査察を挙行した国税庁の態度には強い不信を抱かざるを得ない。

又、パシフイツク企業、エンパイヤ観光、クラウン観光の架空造成費の件も本間氏が指示し、並木被告人がこれに従つたもので並木が本間氏に積極的に又は当初から指示したものではない。

新聞記事によれば、地位と身分のある有力政治家に対しては、超大規模な脱税行為にも目をつむり、あるいは極めて寛大な措置がなされているが、本件では不当な程苛酷である。これは地位と身分による重大差別であり、憲法第一四条の平等の理念にも反する。

又、新聞記事によれば暴力団にも必要経費が認められているそうであるが、それならば被告会社には更にもつと必要経費が認められて然るべきである。

更に、経理帳簿を本間氏に全て渡して、本間氏に申告書を作成してもらい、これに並木は社長として、めくら印をおしていた。現在は深く反省し、正確な経理処理がなされていること等を考慮するとき、本件量刑は余りに苛酷、不当で破棄されるべきである。

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